biboudouのブログ

書籍・音源備忘録 最終的にはそれぞれに索引・クレジットまで作成予定

2018年 橋本治 『読売新聞 連載小説「黄金夜界」』

 

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6月30日で終了

 ※7月3日読売新聞朝刊に連載を終えてのコメント掲載

「すれ違い」のあり方が変わってしまった現代においてメロドラマを復活させることの難しさを語っている。

当初は6カ月の予定だった模様。

 

 

 

主な登場人物

間貫一:東大生 美也の許嫁だった

鴫沢(富山)美也:モデル 年は貫一の2つ下

富山唯継:ネットオークションサイト運営会社のオーナー

 

小見出しとあらすじ

12/26~1/11(85~100)

黒い会社

海から戻った貫一は住所のない人間になっていた。ネットカフェで寝泊まりし、公衆電話から派遣の仕事を登録した。携帯電話は海へ捨てていた。

1/12~1/28(101~117)

脱出

貫一はひたすらに働いた。まだ定住の場所はない。

一月ほど経った頃、幸運にも三週間の長期の仕事が見つかった。工場での単純作業。

しかも寮つきの住み込みだった。

その工場は、高齢により三週間後に閉めることが決まっていたのだった。

1/29~2/18(118~137)

時の階段

三週間の契約は終わった。この三週間で貫一は、ついに自分を取り巻く現実を見る余裕が生まれてしまっていた。そして自分はもう遠いところにいた。それが現実だった。

三週間お世話になった老人は、貫一に一年後に取り壊されるアパートを紹介してくれた。とうとう住所を手に入れたのだった。

2/19~3/10(138~157)

知らない人達

住所を手に入れ、そしてとうとうスマートフォンも買った貫一は、ファーストフードのチェーン店に立ち寄った。そこで貫一は自分の目指す先を思い出した。もともと貫一は飲食店の経営者を目指していたのだ。

一月間、派遣で金を貯めた。そして五月になった頃には、赤羽の居酒屋チェーン店で働いていた。

同じ頃、美也は富山と連れだっていろいろな所に顔を出していた。相撲の五月場所にも。そこで美也は唯継の知り合いの女高利貸し赤樫満枝と初めて顔を会わせた。

3/11~3/30(158~177)

四年後

貫一が働いている赤羽の居酒屋チェーン店はブラック企業として有名なところだった。そこで貫一はバイトを続け正社員となった。

新店舗の入間店に異動となった貫一は、上へと繋がる道を手にした。売上不調の続いた新店舗を自らのアイデアで軌道に乗せ、営業本部長、そして若き社長鰐淵直道に気に入られたのだ。4年の間にセントラルキッチン管理部、仕入れ課係長、大宮店テンチョウを経験し、やがて社長直属の秘書課長となっっていた。

 

3/31~4/8(178~186)

赤樫満枝

冷徹に人を切り捨てて、貫一は真っ直ぐに上へと昇りつめていた。

それはやがて「妬み」を産んだ。社長の直道にまでも。

あるアイデアを提案したことが社長の不興を買った。自分でやってみたらいいだろ、という社長の言葉を受け、貫一は会社をやめる決断を下した。

やめる貫一に直道は「赤樫満枝」の名刺を渡した。

 

4/10~4/27(187~204)

女二人

貫一は西麻布にある赤樫満枝の事務所を訪れた。

満枝は19歳の時に自分の父親の借金返済の肩代わりに、金貸しの赤樫権三郎の妻になった女だった。満枝は権三郎を夫として受け入れなかったが、そのかわりに彼の仕事を受け入れた。やがて仕事を取り仕切るようになった満枝は夫のやっていた闇金融を企業相手のつなぎ融資に転換させた。

そんな満枝に貫一は、「あなたは担保をとる金貸しなのか、事業に出資する投資かなのか」と暗に脅しをかけた。

満枝と美也は一枚の鏡の裏表のような存在だった。

結婚して4年、美也は幸福ではなかった。

 

4/28~5/4(205~211)

思いのもつれ

唯継は当然のように浮気していた。その一方で妻である美也にはたやすく触れられなくなった。

一方満枝は貫一に恋をしていた。

 

5/5~5/21(212~227)

仮面舞踏会

唯継と美也は、どこかの金持ちが主催する伊豆高原で開催の仮面舞踏会に参加していた。それはいかにも怪しいものだった。そしてこれ以上ないほどの醜い場所だった。

美也はすべてが消えていくような思いにかられた。

 

5/22~6/7(228~244)

再会

貫一の店はまずまずのスタートを切っていた。

 SNSでも話題に上るようになっていた。

美也はそれをマネージャーから知らされた。

伊豆から戻った美也は富山と生活を続ける気はなくなっており、

離婚の相談をマネージャーに相談していた。離婚経験者であるマネージャーは、

離婚を止め、取り敢えずの別居を薦めた。

そんな状態の時に貫一の情報が舞い込み、美也の足はいつしか貫一の店に向かっていた。

 

6/8~6/15(245~251)

貫一の店の前に赤樫満枝がいた。

美也は満枝の存在をほぼ忘れていたが満枝は当然覚えていた。2人が連れだって店の中に入ると店の空気は変わった。赤樫満枝はすぐに二人がただの「知り合い」以上の関係であることに気がついた。しばらくして、満枝は、異様な空気の中にいるバイト青年を見ながら三人で場所を変える提案をした。近くにある貫一の部屋へ。

 

6/16~6/26(252~262)

空の鳥籠

三人は虎ノ門タワーマンションへ移動した。

貫一の部屋へ入った美也は、4年間で変わってしまったと思っていた貫一は何も変わっていないのではないかと思った。

貫一は美也と二人で話したかった。満枝が邪魔だった。

伊豆の仮面舞踏会のことを知っている満枝と美也の間でいつしか罵倒合戦が始まった。間に割って入った貫一は満枝を大きな部屋の隅っこに追いやった。

 

6/27~6/30(263~266)

黄金夜界

貫一は美也に、「大人になるのって哀しいね。人を愛せなくなるんだ。」と言った。

そして「君に会っても、何をどう言っていいのか、分からないんだ」と言おうとして言葉に出せず、何も言わずに、貫一は高層ビルから落ちていった。高層ビルの窓の明かりを流れる滝のように見ながら。

自分を癒してくれるものがなにもない世界で、生きて行きたくはなかった、と思うことを自分に許した。そして自然に、癒してくれるもののないことを宥す涙が出た。